臨床心理学:適応と不適応

目次

身体醜形障害

身体醜形障害とは、自分の身体的外見が醜いと思い込み、それにより
強い精神的苦痛を伴う状態のこと。その外見の欠陥は主観的なもので、
過剰に誇張されている。このとらわれの為に、対人場面の回避や外出
恐怖など社会生活に支障をきたしている。重症レベルは醜形恐怖と
呼ばれており、対人恐怖または思春期妄想症の一種とされ、美容整形
の繰り返しや自殺念慮・企画が生じることもある。治療としては、
抗うつ剤が有効な場合があり、認知行動療法との併用が主流とされて
いる。

転換性障害

転換性障害とは、かつての転換性ヒステリーにあたる神経症のこと。
器質的には異常がないにもかかわらず、歩行障害や失声などの
運動麻痺、振戦やチックなどの運動症状、失明やトンネル視などの
感覚異常が現れる。詐病ではないが、症状に比べて本人の不安が
小さいのが特徴。精神分析理論では、無意識的葛藤が症状の形で
身体化したものと考えている。また身体症状により不安から逃れたり、
他者からの関心を得られるといった疾病利得のメカニズムが関連
している。ほとんどが短期間で自然に回復するとされる。

心気症

心気症とは、わずかな身体的不調に対する誤った解釈により、
重病を患っているかのような恐怖にとらわれ、精神的苦痛を
感じたり社会生活に支障をきたす神経症のこと。医学的検査で
異常がなくても納得できない。しかし、うつ病や分裂病の疾病
妄想ほど堅固でない。自分の心身の異常に注意が集中しやすく、
それに固着する為に、さらにそれが強く意識されるという悪循環
により症状が固定化する。森田療法をはじめとした心理療法が
有効であるが、クライエント本人は身体病と確信している為
治療抵抗が強く、配慮が必要となる。

身体表現性障害

身体表現性障害とは、医学的検査により異常が発見されない
のに、身体に関する症状が存在し、社会生活に支障をきたす
状態のこと。ストレスや不安・葛藤などの心理社会的因子が、
発症や慢性化に関連していると考えられており、決して詐病
ではない。かつては転換性ヒステリーと呼ばれた神経症レベル
の障害である。診断においては、うつ病の身体症状と鑑別が
重要である。

心的外傷後ストレス障害

心的外傷後ストレス障害とは、災害・事故による外傷体験で発症し、
侵入性再体験(フラッシュバック)、外傷に関連した刺激の回避や
反応性の低下、過度の覚醒・緊張といった症状が3ヶ月以上持続
する障害のこと。1ヶ月以内で治癒するものは、急性ストレス障害
と呼ばれる。治癒として3つの要素(再体験・解放・再統合)が必要
とされている。具体的には、系統的脱感作法やEMDR、デブリー
フィング、子供の場合は遊戯療法が用いられている。

恐怖症

恐怖症とは、特定の状況や物に対して、理屈に合わない強い恐怖
を感じることで、社会生活に支障をきたす神経症のひとつである。
自分でもその恐怖が非合理的と自覚していてもコントロールできない
点は、強迫観念と共通する。重症例ではパニック発作を伴う場合
もある。症状を古典的条件付けとその般化としてとらえる行動療法
が、系統的脱感作法やエクスポージャーなどの技法により高い
治療効果をあげている。しかし、対人恐怖など他の病態と重なる
症状もあるので注意が必要とされる。

パニック障害

パニック障害とは、恐慌性障害とも呼ばれるもので、主症状は、
繰り返し起こるパニック発作である。予測不能な激しい不安反応
が突然はじまり、動悸・発汗・震え・めまい・窒息感・死への恐怖
などの症状が、10分以内にピークに達する。さらに予期不安(パニ
ック発作が起こることへの持続的な不安)が引き起こされ、外出
忌避など回避行動が現れる。広場恐怖を伴う場合とそうでない場合
がある。かつては治療困難とされていたが、近年では認知行動
療法及び薬物療法が効果をあげている。

強迫性障害(強迫神経症)

強迫性障害とは、強迫観念と強迫行為が慢性的に存在し、その為に
日常生活や人間関係に支障をきたすことを特徴とする神経症のこと。
強迫観念とは、自分でも非合理・非現実的と自覚している考え・
イメージ・衝動が不可避に頭に浮かび、不安や苦痛を引き起こす状態
のことで、非合理性の自覚がある点が妄想と異なる。強迫行為とは、
強迫観念を打ち消す為に行われる反復的・儀式的行動であり、確認
脅迫や洗浄脅迫が多い。かつては治療困難とされていたが、近年
では行動療法及び薬物療法が効果をあげつつある。

全般性不安障害

全般性不安障害とは、非特定で慢性的な不安が主症状である
神経症のこと。不安を主症状とする点ではパニック障害と共通
であるが、不安発作(パニック発作)は生じない。日常の些細な
出来事に対しても過剰な不安が慢性的に続く状態で、不安の
対象は固定的ではなく漠然としている。筋緊張(手のふるえや
頭痛)や自律神経系の過剰活動(動機や胃腸症状)、不眠などの
身体症状をともなうことが多い。治療としてはリラクゼーション系の
認知行動療法が有効とされているのである。

神経症

神経症の定義・概念は未だ明確でなく、現在のDSMでは除外
されているのである。古典的な定義としては、①精神病でなく、
現実検討能力が有り、病識を持つ②器質性精神障害でもなく、
神経学的な病変は存在せず、機能的障害である③心因性であり、
何らかのストレスや内的葛藤により発症し、その心的過程が了解
可能である④可逆性の障害であり、治癒後は基本的に良好で
あり、後遺症がない、等が挙げられる。

気分障害

気分障害とは、抑うつや高揚といった気分の変化が優勢な症状
であり、持続的な感情の障害。従来の躁うつ病・抑うつ神経症・
情動性人格障害などを統合した診断名のことである。以前は
感情障害と呼ばれたが、最新のDSMでは気分障害という名称
に変更。下位分類として、躁とうつの2つの病相をもつ双極性障害、
大うつ病エピソードのみを示すうつ病性障害、軽いうつ病エピソード
が長く持続する気分変調性障害などがある。

妄想性障害

妄想性障害とは、持続的で揺るぎない奇異な妄想体系が形成
される精神障害のこと。人格は保たれ、感情や行動の異常は
みられないのである。以前は妄想症と呼ばれたが、DSM-IV
では精神病性障害のひとつに分類されている。妄想という点
では分裂病と共通しているが、幻覚を伴わず、発症年齢が遅い
(好発期は中年以降)のが特徴である。妄想体系の内容は、
誇大妄想・被害妄想が中心であるが、色情型・嫉妬型・身体型
の妄想も見られる。発症率は0.025~0.03%とかなり低いと
されている。

精神分裂病(統合失調症)

精神分裂病とは、一般に思春期以降に発症し、症状として幻覚・
妄想、思考や行動の不統合などの陽性症状、感情や意欲が貧困化
する陰性症状などがある。かつては解体型・緊張型・妄想型などの
下位分類が使用されていたが、現在では軽症化が進み、厳密な
分類が困難なケースが多い。発症率は1%弱。いまだ発症の原因は
解明されていない。2002年1月、精神神経学会は「統合失調症」へ
病名変更を発表。しかし当面、この病名変更は、医療・保険・福祉
など患者・家族が直接かかわる領域に限られ、医学教育や研究
では従来通りとされている。

This article was updated on September 8, 2022